旧統一教会(世界平和統一家庭連合)をめぐる解散命令が、ついに司法で確定した。2026年3月4日、東京高等裁判所(三木素子裁判長)は、2025年3月に東京地裁が下した解散命令を維持する決定を出し、即日効力が生じた。宗教法人法に基づく解散命令はオウム真理教、明覚寺に続く日本史上3例目だが、今回は「民法上の不法行為」を根拠とする初のケースという点で歴史的な意味を持つ。
「40年にわたる組織的な高額献金被害」という裁判所の認定は何を意味するのか。1000億円超とされる教団資産はどこへ向かうのか。被害者救済は本当に進むのか。X(旧Twitter)やネット上でも「これで終わりじゃない」「むしろここからが本番」という声が相次いでおり、関心は衰えていない。
旧統一教会の解散命令とは何か
2025年3月25日、東京地方裁判所は旧統一教会の解散命令を決定した。信者による高額献金の勧誘が「法令に違反し、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」に当たると判断したもので、その認定被害は少なくとも1500人超、約204億円に上るとされた。
今回の高裁決定の最大の特徴は、解散命令の効力が即座に生じる点にある。これにより、旧統一教会は長年保持してきた「宗教法人」としての法的資格を失い、直ちに教団財産の清算手続きが開始されることとなった。
法令違反による解散は日本の宗教法人史上3例目だが、過去の2例はいずれも教団幹部が殺人や詐欺といった「刑事事件」を起こしたことが根拠であったのに対し、今回は「民法上の不法行為」を根拠とした初めてのケースである。
解散命令に至るまでの経緯 安倍元首相銃撃事件が起点
問題が社会的に顕在化したのは2022年7月8日、安倍晋三元首相が奈良市で銃撃された事件がきっかけだった。山上徹也被告の母親は、旧統一教会の熱心な信者であり、夫の生命保険金や土地の売却益など、総額約1億円を教団に献金していた。この高額献金によって山上家は2002年に自己破産し、家族は崩壊した。
2026年1月21日、奈良地裁は山上被告に対し、殺人罪などで求刑通り無期懲役の判決を言い渡した。母親の多額献金による家庭崩壊が動機に深く関わっているとして、裁判を通じて「宗教2世」問題も改めて注目を集めた。
岸田文雄首相(当時)は2022年10月、民法上の不法行為でも「組織性、悪質性、継続性」の3要件を満たせば解散命令を請求できるとの解釈を示した。文部科学省は宗教法人法に基づく質問権を初めて行使して調査を進め、2023年10月、収集した約5000点の証拠を基に教団の解散命令を東京地裁に請求した。
高裁が認めた「40年の被害」 海外送金も問題視
東京地裁決定においては、信者による不法行為に該当する献金勧誘等の行為は「コンプライアンス宣言前後の約40年の長期間にわたり、全国的な範囲で行われており、総体として、類例のない膨大な規模の被害を生じさせたものといえる」と厳しく指摘されている。
教団側は2009年に「コンプライアンス宣言」を出して活動を見直したと主張していたが、高裁はその主張を退けた。安倍元首相の銃撃事件後にとられた措置も社会的な批判をかわすための一時的なものにすぎないとし、自発的に不法行為を防止するための対策をとることは期待しがたいと結論づけた。
また高裁は、相当多額の海外送金が継続されており、「韓国の教団本部の活動資金の減少を防ぐためと認めるのが相当」と認定した。これは教団側が主張する「改善・反省」の姿勢と真っ向から矛盾するものとして重視されたとみられる。
解散命令決定直前の2025年12月、旧統一教会の田中富広会長が東京都内で記者会見を開き、高額寄付問題について初めて謝罪し、同日付で会長を辞任した。しかし、その後の高裁決定が示す通り、過去40年にわたる組織的な不法行為の重大さを打ち消すには至らなかった。
清算手続きの現状 1000億円超の資産と「被害者救済」の行方
東京高裁の解散命令を受け、堀正一会長は退任し、清算人に選ばれた伊藤尚弁護士が教団の代表者となった。清算人は裁判所の監督の下、債権の取り立てや債務の弁済など必要な事務のすべてを処理する権限を持つ。
高裁決定によると、教団の資産は2024年度末で約1040億円に上る。集団調停では195人に解決金計約39億円の支払いが決まっているが、それでも資産の大半は残るとみられる。
最新情報として、清算人の伊藤尚弁護士は2026年4月22日までに、教団の預貯金口座の取引を停止させ、少なくとも400億円を保全したと明らかにした。清算手続きに関与しない教団職員約900人を解雇する方針も示した。全国の教団施設400カ所超を訪問し、主要な帳簿類を確保したという。
債権の申し出受け付けは2026年5月20日から1年間開始されており、被害者はオンラインでも申出が可能となっている。
「残余財産」問題 関連団体への流出を懸念する声
清算が進んでも、すべての問題が解決するわけではないという声は少なくない。
教団は残余財産の帰属先に北海道帯広市の宗教法人「天地正教」を指定しており、全国統一教会被害対策弁護団は活動の継続を懸念している。
現行法のままでは、清算手続後に残余財産が生じた場合に解散法人がその帰属先を決められる規定となっていることから、旧統一教会の残余財産がその関連団体に引き渡されることが懸念されている。この点については、清算手続終了までに、解散命令による解散の場合の残余財産の帰属についての例外規定を設ける等の法的措置を行うことが不可欠である。という意見も弁護士団体から強く出ている。
また旧統一教会は、法人格を失っても宗教団体としては存続するため、今後も霊感商法や過大な献金の要求等による被害が生じるおそれはあり、引き続き注視が必要だという指摘もある。
「宗教2世」問題は置き去りにされていないか
ネット上では「解散だけで終わりにしてほしくない」「2世の被害は金銭では解決しない」という声が多く見られる。
2025年7月には元2世信者8名が、幼少期からの被害に対する損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。これは2世被害に関する教団の責任を問う前例のない試みであり、金銭賠償のみならず、奪われた「人生」そのものの回復を求める戦いとなっている。
被害者の中には、金銭的な損害にとどまらず、教育機会の喪失、心理的な支配、家庭崩壊といった深刻な影響を受けたとされる人も多い。解散命令はあくまでも「宗教法人格の剥奪」であり、こうした被害の回復とは別の話だという認識が広がっている。
清算の長期化は避けられない見通し
オウム真理教の事例では、清算人が資産調査を実施したところ債務超過が判明し、破産手続きを終えるまでに約13年を要した。旧統一教会の場合、1000億円超の資産を抱える「活発な宗教法人が清算される初めてのケース」(全国弁護団・阿部克臣弁護士)であり、複雑な手続きが長期化することは確実視されている。
法的な枠組みの整備も急務だ。2023年12月に制定された被害者支援のための特例法によって、解散命令確定前は法テラスを通じた支援がされていたが、確定後も継続されるべきであり、そのための立法が急務だという意見もある。
教団側は3月9日に最高裁へ特別抗告を行ったが、特別抗告をしても解散命令の効力は失われず、判断が覆らない限り清算手続きは継続される。
「解散命令確定」はひとつの区切りではあるが、被害者救済、残余財産の行方、宗教2世問題、そして関連団体への活動継続という複数の課題が山積みの状態だ。「本当の終わり」には、まだ長い道のりがあるという見方が強い。